滋賀県知事のダム建設推進への変節について

滋賀県知事の大戸川ダム建設推進への変節について
◇大戸川ダム問題の経緯
 大戸川ダムは国が建設を計画し、1968年に予備計画調査に着手。2008年に国土交通省近畿地方整備局の諮問機関「淀川水系流域委員会」が「効果が限定的」として建設見直しを提言。4府県知事が「施策の優先順位が低い」として建設の凍結を求める共同見解を発表し、国は事業凍結を決めていました。2016年2月に国土交通省近畿地方整備局は、大戸川ダムに関して、他の治水対策案と比較して最も有利であるとする検証結果をまとめ、提示しました。これについて、三日月知事は「4府県合意の時と状況は変わっていない。合意を見直す必要はない」「ダムに一定の治水効果はあるが、大戸川についてはダムで全ての浸水を防げるわけではない。水系全体で造るか造らないかを判断する。その中で凍結という状況は変わっていない」と発言していました。
◇自民党の圧力で知事が変節
ところが、2017年12月の県議会で、「県益を最優先する河川政策の推進を求める決議」を自民党等が賛成多数で採択し、「四府県知事合意の撤回に向けた措置を講ずるよう強く求める」と知事に圧力をかけました。ここから三日月知事の変化が始まり、2018年4月の招集会議で、「この決議を重く受けとめ、大戸川ダムの大戸川流域に与える治水効果と瀬田川洗堰操作に与える影響について検証する勉強会を立ち上げる」として、3426万円の補正予算を提案しました。その後、3回の勉強会を経て、三日月知事は本年4月、「ダムに一定の治水効果があることが分かった」と方針転換を表明し、5月には近畿地方整備局長に、「実施時期を早期に検討していただきたい」とダムの早期整備を求めるところまで完全に変節しました。
◇大戸川ダムの治水効果は限定的
近畿地方整備局が2016年に「ダム有利」を提示した時、宮本博司・元国土交通省近畿地方整備局河川部長は、「大戸川ダムができても計画水位のギリギリ下、なければ19cm上。200年に1回の特定の洪水に対して、そんな微小な水位の差のために作るダムなんて、緊急性は低い」「想定外の雨が降ったら、ダムの効果は非常に小さいか、まったくない。鬼怒川でも実証された。それなのに大戸川ダムの効果は、想定洪水でさえも限定的。今さら必要性を検証すること自体、理解に苦しむ」と苦言を呈し、河川工学者の今本博健・京都大学名誉教授は「大戸川ダムに効果があるとする論拠は、『淀川水系流域委員会』と『京都府技術検討会』によって崩された。速やかに中止すべきだ」と述べていました。これらの見解は、今の三日月知事の言動への的確な批判となっています。昨年4月の勉強会のための補正予算に対して、私は反対討論で「勉強会の目的は、『4知事合意の撤回、大戸川ダム建設推進』への方針転換の理由づけにある」と批判しましたが、事実経過はその通りとなりました。
◇知事変節とダム推進の諸問題
三日月知事のダム建設推進への転換は、県民本位からはずれた様々な問題を持っていますが、私は4点指摘したいと思います。
第一に、大戸川ダム建設推進への転換によって、2018年7月の知事選挙とその後の県政運営において自民党の支援を得ること可能になったことです。ダムが「政争の具」とされていることは許されないことです。
第二に、これだけ重大な方針転換について、県議会にまったく説明をおこなっていないことです。新たに就任した自民党の議長でさえ、この問題での県議会軽視を批判するほどです。
第三に、勉強会設置の理由に、全国で想定外の豪雨が相次いでいることがあげられていますが、勉強会では近年のいくつかの全国の豪雨モデルを想定して検証を行うという矛盾したことをしています。私たち県会議員に説明はありませんが、私の理解では、勉強会の結論は「大戸川ダムをつくっても想定外の豪雨に対しては、洪水は防げない」と受け取るべきだと思います。
第四に、ダムが環境に及ぼす影響は全く検討されていないことです。ダムに貯水した水の腐敗、堆砂、河床の低下、魚への悪影響、海岸の浸食…ダムは治水だけでなく環境への影響などを総合的に判断するべきです。世界を見れば、脱ダムからダム撤去の流れになっています。アメリカでは、2017年に86ダムが撤去されたとされています。熊本県南部を流れる球磨川の荒瀬ダムの撤去工事が昨年3月に完了。ダムの完全撤去は全国で初めてです。堆積した土砂のヘドロ化で悪臭を放ったダム湖は6年をかけた工事でなくなり、地元の住民が「川がよみがえった」と喜び、瀬や淵、砂州といった変化に富む川本来の流れが復活したとされています。限定的な治水効果だけでダム建設推進を表明する視野の狭さはきびしく批判されるべきです。
◇堤防強化など流域全体での治水対策を
日本の地形は急峻なので、ダムを造っても貯水量は少なく、想定を超えればすぐ満杯となり、洪水を調節することはできません。このため、ダムがあっても水害が防げず、逆にダムが水害を大きくした事例もしばしば起こっています。ダムに貯水して洪水調整するダム頼みの治水政策のあり方を根本的に見直し、堤防強化など流域全体での治水対策に改める時代になっているのではないでしょうか。

2019年05月21日